社説1 名門アンダーセン“消滅”の衝撃
5大国際会計事務所の1つアンダーセンが消滅することになりそうだ。米国最大の企業倒産となったエンロンの不透明な会計操作に関与して信用を失墜したアンダーセンに、連邦地裁が司法妨害(証拠隠滅)で有罪の陪審評決を下したことにより監査業務の継続は困難になった。
米国経済史に残るスキャンダルに発展したエンロン事件の核心は会計問題にある。破たんの原因ときっかけが簿外金融取引で生じた巨額損失とその発覚だったのだから、会計基準の不備と並んで会計監査の在り方が批判のヤリ玉に挙がって当然だ。資源配分を市場に委ねる米国資本主義にとって、企業の会計情報の正確な開示は投資家の自己責任を問う前提であり、体制の生命線である。
とりわけ深刻なのは、企業の財務報告の信憑(しんぴょう)性を保証する公認会計士の監査への信頼を裏切ったことだ。アンダーセンは不正を見逃したばかりか、会計操作にかかわった疑いをもたれ、当局の捜査を妨害する目的で書類を破棄するなど証拠隠滅をも図ったとされる。
会計事務所と依頼主の企業の関係は微妙だ。企業から報酬を得て行う会計監査が信頼されるには、独立性の担保となる会計士の強い職業倫理が求められる。近年は会計事務所の業務が広がり、監査業務とコンサルタント業務の利益相反など、顧客企業との癒着が問題視されていた。
米国ではエンロン事件で火が付いた会計不信が資本市場全体に及び、会計・監査の信頼性回復に向けた議会や当局の動きが本格化している。世界で最も厳格な会計基準と会計監査を誇り、自国制度の世界標準化を目指す米国の戦略の要でもあるだけに、その核心部分の欠陥の露呈は日本にとっても他人事で済まされない問題をはらんでいる。
会計先進国、米国の制度も完全ではないことが分かったからといって、会計後進国として批判の矢面に立つ日本が「お互いさまではないか」と安心するのは間違いだろう。おひざ元で起きた不祥事のあいまいな決着を許さず、名門会計事務所をあえてつぶすという厳しい処断に、米国社会が受けた衝撃の大きさと、強じんな自浄能力を読み取るべきだ。
アンダーセンの息の根を止める刑事裁判での有罪評決の決め手になったのは司法取引に応じたエンロン担当会計士の証言である。米国は国益(公益)に反する犯罪行為を取り締まるためには手段を選ばない国だ。公正な市場の確保を安全保障と並ぶ国益と考え、国を挙げてその実現を目指す米国から学ぶことは多い。